Relax with Football

心が疲れたときに読むサッカー

いつもギラギラしていた人物がその後ろに別の面を持っていたともっと早く気付くべきだった理由(森雅史/日本蹴球合同会社)

今も会うたびにこっそり後悔している出来事です(文中敬称略)。

 

 

前園真聖は現役時代、いつもギラギラしていた。言葉数が少なく、目力の強さもあって、近寄りがたい雰囲気を常に漂わせていた。できれば話しかけず、取材したくないタイプの1人で、ちゃんと答えてくれるかどうかも分からなかった。

だが2000年の終わり、前園が取材を受ける現場に立ち会うという仕事があった。その年、前園は加藤久監督に呼ばれて海外から帰国し、J2に降格した湘南ベルマーレに加入したものの、昇格を逃し、1年で退団することになった。その退団が決まった後の取材現場の立ち会い。ただでさえ苦手な感じなのに、どんな空気になるのやら——。

ところが現場は緊張感があるものの、嫌な雰囲気にはならなかった。前園はインタビュアーの質問に、一つひとつ丁寧に答えていく。ギラギラしているのだが、何を聞かれてもきちんと向かい合って言葉を発する。何より誤魔化さないし、逃げない。その話しぶりを聞いて持っていたイメージは半分ぐらいが崩れ去った。

立ち会いの合間、休憩時間に偶然近くに行くことになり、目が合って会釈をしたら相手もちゃんと頭を下げてくれた。その対応につい気が緩んでしまって、思い出すだけでもひどい質問をした。

「前園真聖の全盛期は終わったという声についてはどう思いますか」

初めてちゃんと話すというのにあんまりな投げかけだ。怒られても仕方がないと思う。だが彼はこちらの目を見て、真剣に答えてくれた。

「実はずっと明らかにしていないケガがあって、ここ数年苦しんでたんです。でも今やっと元に戻ったので、またちゃんとプレーできると思います」

そういう真面目な答えをもらって、イメージは完全に変わった。だからと言って「じゃあ持ち上げよう」「盛り上げよう」とはならなかったが、次のシーズンはもっと注意してみなければいけないと思ったのだ。

2001年、前園は東京ヴェルディ1969に復帰する。シーズン当初こそ動きがぎこちなかったものの、次第にドリブルのキレが増していく。トップスピードから急激なターンを見せられるようになったのは、ケガが治ったおかげだろう。判断力は他の選手に比べてワンランク上。確かにまた全盛期がやってくる。

試合も取材に行って、自分の目でも確かに体がキレているのも目の当たりにした。これはゲーム後に話を聞かなければいけない。ところが、待てど暮らせど彼はミックスゾーンに出てこない。どうやら報道陣の前を通らないように「裏抜け」という規定違反の行動をしてバスに向かったようだ。

彼がどう自分の調子を思っているか、どうしても聞きたい。だからこちらも規定違反をして、こっそりチームバスに向かった。運良くバスの前で会うことができた。試合後なのでギラギラ感が増しているし、言葉数も少ない。半年前に会ったことなんか覚えていなそうだ。恐る恐る「確かに体がキレてますね」と1問だけ質問した。

「だいぶよくなったと思います。あとはまだ得点がないので、ゴールさえあれば1ランク上に行けると思います」

彼はボソリとそれだけ答えて、そそくさとバスに乗り込んだ。

 


9月15日J1リーグ・セカンドステージ第5節、東京Vは横浜F・マリノスと国立で対戦した。試合は開始3分で北澤豪がラフプレーの警告を受けるなど、序盤から激しい戦いに。そして35分、東京Vは右サイドを崩し、ゴール前にクロスが上がる。混戦になってボールは2人の前に転がった。

この場面に心臓が早鳴る感じを覚えた人は多かっただろう。前園と川口能活を結んだ直前の、中間地点よりもやや前園寄りにボールはあった。2人とも1つの目標に向かって飛び込んでいく。川口は体を横にして投げ出しながら、前園は足を伸ばしながら。

どちらかのケガは避けられない場面だった。前園が足を伸ばせば、ボールを蹴ったあとに川口の腹部に足が入ってしまうはずだ。だが伸ばさなければ、足は芝に引っかかってそこに自分の飛び込んだ勢いがすべて伝わってしまう。

前園はどうしたか。

ボールはゴールに入った。足は伸ばさなかった。そして左足に自分の勢いを付けた体重がすべて乗り、骨が悲鳴を上げた。そしてこの試合が、前園の国内最後の試合になった——。

20年が経ち、前園に「あのとき、足を伸ばしませんでしたね」と聞いた。前園は「いやぁ、怖かっただけですよ」と答えた。昔とは違った、穏やかな目で。

「怖かった」のは相手をケガさせてしまうことだろう。そしてそれよりも自分のケガを選択した。現役を終えて、前園を覆っていたギラギラはなくなり、隠れていたそんな人の良さが表に出てきた。

もし昔の自分にもっと観察力や洞察力があれば、きっと「優しさ」に目を向けることができただろう。そうすれば言葉の引き出し方も変わって、本来の姿に近いところを聞けたのかもしれない。大きなケガをしてしまう前に。

それができなかったのは本当に残念だ。自分の未熟さが恨めしい。だけど、ホント怖い感じだったんですよ……。

 

 

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