日本代表は2024年1月〜2月に開催されたカタールアジアカップで、初戦のベトナム戦に4-2と勝利を収めたものの、第2戦のイラクには1-2で敗れてしまう。そのためグループリーグ第3戦、日本はインドネシアに勝たなければグループ突破を確定できないという状況に陥ってしまった。
インドネシアを率いるのはシン・テヨン監督。選手と監督の両方でACL優勝を果たしたことがあり、2017年にはウーリッヒ・シュティーリケ監督の跡を継いで韓国代表の監督に就任した。2018年ロシアワールドカップではスウェーデン、メキシコに敗れたものの、ドイツに2-0と勝利を収め、ドイツをグループリーグ敗退に追いやった。
だがシン監督はそんな成績よりも、「日本嫌い」で日本でも韓国内でも知られている。今回の日本代表戦の前日記者会見でも韓国メディアから「日本との対戦だが」と聞かれると、ニヤリと笑いながら「私は韓国人だから日本との対戦には特別な思いがある」と答えていた。
インドネシアとしても日本戦の結果次第ではグループリーグ突破もある。シン監督にとっては、一層日本戦に力が入ったことだろう。
それでも実際に試合が始まってみると、開始早々上田綺世がペナルティエリアの中でホールディングの反則を受け、日本が6分に上田のPKで先制する展開に。さらに52分、88分と日本がゴールを挙げてインドネシアを追い込んだ。インドネシアは90+1分、サンディ・ウォルシュが押し込んで意地の1点を返したが、それ以上スコアが動くことはなかった。
この悔しい敗戦に試合後のシン監督はどう感情表現をするのだろうか。そう思って韓国ベンチを見ていると、シン監督は自分から森保一監督に歩み寄り、言葉を交わすと、2人で肩を組んでお互いをたたえ合っていた。
この場面は韓国メディアにとっても意外だったのだろう。取材エリアで韓国メディアに「シン監督がやったことを見た? 彼は日本嫌いだよね?」と聞くと、みんな笑っている。そこにシン監督が現れた。
監督はまさか日本メディアからコメントを求められるとは思っていなかったのだろう。だが、質問を始めると監督はこちらに向かい合って質問に答え、韓国メディアの人たちはスッと引いて場所をつくってくれた。
——試合後、森保監督と話している姿を見ました。どんな話をしたのですか?
「おめでとうございますと言いました。森保監督からは『インドネシアがこんなに強くなっているとは思わなかった。素晴らしい進歩ですね』と言ってもらいました。その言葉に応えられるよう、またしっかり仕事をしたいと思います」
——シン監督はいつもいい仕事をしていると思っていますが
「ありがとうございます」
そう言うとシン監督はちょっとはにかんだような笑顔を浮かべた。全力を尽くした戦いのあとはこんな心境になるのだろうか。
「反日っぽいことを言ってくれてもおもしろかったのに」と不謹慎なことを考えつつも、心が温まったほんの2分ほどの忘れられないやりとりが大会の思い出に加わった。
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